多孔膜・多孔質膜とはどのようなものか?

材料技術

多孔膜・多孔質膜とフィルムの違いとは?

これまでフィルム材料とその加工・機能化のお話をしてきました。フィルムと同様な膜形状の材料として、多孔膜・多孔質膜と呼ばれる材料があります。この材料は、歴史的にはフィルム材料とは別の流れで使われるようになってきた材料であり、機能・用途としてもフィルムとは異なる部分が多い材料です。これから、多孔膜・多孔質膜についてご紹介していきたいと思います。

まず、多孔膜と多孔質膜という名称ですが、多孔質膜は多孔質材料という概念の中の膜というイメージであり、多孔膜は多くの孔のある膜というイメージになります。若干多孔質膜の方が概念的には広いのですが、膜材料としては多孔膜という言い方をされるので、今後多孔膜と呼んでいきます。多孔膜の比較としてはフィルムが対比し易いですが、概念的に合わせるとフィルムは緻密膜という用語になってきます。なお、膜材料という観点では、多孔膜、緻密膜以外に、生体膜や液膜、選択透過膜という機能的な分類もあります。

フィルム材料と多孔膜を用途面で分類すると以下になります。機能面の特徴としてはフィルムはバリア性のある膜、多孔膜は透過性のある膜ということになってきます。

機能フィルム(緻密膜)多孔膜
包装
防湿×
防水
ろ過×
分離
電池セパレータ×
通気×
支持体

 用途   ◎主に使用 〇よく使用 △使用可能性あり ×通常使用されない

多孔膜材料の歴史的な経緯

多孔膜材料の用途としては、歴史的に古い順から見ると、布としての用途、ろ過材料としての用途、紙としての用途、という流れがあります。なお、フィルム材料のような緻密膜の用途には天然の皮などが使われてきましたが、フィルム材料の活用は19世紀頃からで、多孔膜に比べかなり新しい材料になります。

布としての用途は、数万年前に遡るとされ亜麻・麻・毛などの天然繊維を撚って糸にし、織る技術が新石器時代にはあったようです。この段階での「多孔質性」は主に保温性・通気性という副次的機能だったと思われます。

ろ過材料は、最も古い「多孔質膜」の性質の利用として水や液体の濾過で使用されました。古代エジプトや古代ローマでは、砂・炭・織物・多孔質の岩石(軽石など)を使って穀物や酒(ビール)を漉す濾過が行われていたことが記録されています。また、素焼きの陶器(unglazed ceramics)は古くから水の浄化容器として使われ、これは今日のセラミック膜の原型と言えます。次に示す紙も、繊維が絡み合った多孔質構造体であり、濾過用途にも応用されました。

紙としての用途は、中国において後漢時代の蔡倫(2世紀初頭、105年頃改良)が植物繊維(樹皮・麻くず・漁網)を原料とする製紙法を確立しました。紙は繊維がランダムに絡み合った多孔質シートであり、当初は主に記録媒体として発展しました。

多孔膜のろ過材料としての発展

多孔膜がその機能に着目されて、科学的な検討が進んだのは、ろ過材料としての領域です。

1855年、Adolf Fickが拡散の法則(フィックの法則)を発表し、膜を介した物質移動の理論的基盤ができました。同時期、コロジオン(ニトロセルロースをエーテル・アルコールに溶かしたもの)を使った人工膜の作製が試みられ、これが合成高分子膜の起源とされています。
1907年、Heinrich Bechholdがコロジオン膜の孔径を制御する手法を開発し、「限外濾過(ultrafiltration)」という言葉を初めて用いました。孔径によって分離性能が変わることが実証された、重要な転換点です。

1920〜30年代、コロジオン膜やセルロース系膜が細菌濾過や実験室用途で実用化されました。
第二次世界大戦前後には、Sartorius社などがメンブレンフィルターを工業生産し始め、医薬品・飲料水の無菌濾過に使われるようになります。

その後の転換点は、1960年、アメリカのSidney LoebとSrinivasa Sourirajanによる非対称酢酸セルロース膜の開発です。表面に緻密な選択層(スキン層)を持ち、内部が多孔質という構造により、高い透水性と高い塩阻止率を両立させました。これが実用的な逆浸透(RO)膜の誕生であり、海水淡水化技術を一気に実用レベルに引き上げました。この技術的ブレークスルーを起点に、精密濾過(MF)・限外濾過(UF)・ナノ濾過(NF)・逆浸透(RO)という孔径による分離技術が整理されていきました。

まとめ

多孔膜材料はフィルム材料(緻密膜)とは異なる歴史や用途で活用されてきた膜材料です。実用的な多孔膜材料としては、布、紙、ろ過材料がありますが、特にろ過材料として19世紀から20世紀にかけて技術的に大きく進展してきました。

多孔膜材料の特徴は、その透過性にあります。さらに、その孔径による分離性能により様々なろ過技術の領域が広がってきました。

多孔膜・多孔質膜材料に関して、今回の記事を参考にしていただけるとうれしいです。

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