ろ過用途の多孔膜から選択透過への進展
多孔膜活用の中で技術的に進展してきた用途として、ろ過用途の多孔膜についてお話ししてきました(ろ過用途の多孔膜:ろ過の孔径と方式)。このろ過用途の多孔膜メカニズムの中で、孔径領域によるろ過機構の違いとして、粗ろ過・MF・UFでは「孔」という構造によるふるい分け機構である一方、NF・RO領域では、分子レベルのふるい分け(膜としては緻密膜範疇に入る)や膜への溶解性や電気的相互作用の影響などのメカニズムが推定されてきました。また、それまでのろ過の液体と異物(固体)を分離するという概念以外に、NF・RO領域では液体と溶解成分を膜を通して成分濃縮するような方式が検討されてきました。
このようなろ過用途の技術的な進展とメカニズム理解の中から、より広く「選択透過膜」という概念のさまざまな膜技術が生まれてきました。選択透過膜では、固液以外に液-液の分離・分別や気体成分の分離、また電荷をもつイオンなどの選択的な透過性を制御する膜などのコンセプトが生まれてきています。
| 分離機構 | 分離を決める主因 | 代表的な膜 |
| 孔によるサイズふるい分け | 粒子径と孔径の差 | 精密ろ過膜、限外ろ過膜 |
| 分子レベルのふるい分け | 分子径とサブナノ細孔の差 | ゼオライト膜、分子ふるい膜、一部のナノろ過膜 |
| 溶解・拡散 | 膜への溶解性と膜中の拡散速度 | ガス分離膜、逆浸透膜、浸透気化膜 |
| 電荷・化学的親和性による選択 | イオンの符号、価数、水和状態、官能基との相互作用 | イオン交換膜、イオン選択膜 |
選択透過膜の活用領域
それでは、選択透過膜の活用領域を見ていきたいと思います。分離の対象の観点から見ると、気体成分を分離するガス分離膜、液体成分を分離する有機溶媒分離(ナノろ過等)や浸透気化膜等が挙げられます。気体透過膜の活用は産業的にも発展している領域です。
また、膜による電気的な分離や選択透過を活用した用途として、リチウムイオンの電池セパレータや、イオン交換膜・イオン選択膜、燃料電池膜や水素電解膜などがあります。リチウムイオン電池や新たな電池・電気化学領域においては、これらの膜技術が重要になってきます。
その他、分離、選択透過対象が特殊な用途として、医療やバイオ領域があります。この領域は、ろ過による分離機構なども含まれるのですが、対象が血液や血漿などの特殊性があることが特徴で、医療やバイオテクノロジーの領域でさまざまな課題や技術検討があります。
| 目的 | 用途 | 選択メカニズム |
| 気体分離 | ガス分離膜 | 分子サイズ、溶解度差 |
| 液-液(溶質)分離 | 有機溶媒分離(ナノろ過) | 分子ふるい、溶解性 |
| 浸透気化膜 | 溶解性 | |
| 電気的な分離 | リチウムイオン電池セパレータ | 電気化学用隔膜 |
| イオン交換膜、イオン選択膜 | 電気的相互作用 | |
| 燃料電池膜、水電気分解膜 | 電気的相互作用 | |
| 医療・バイオ分離 | 人工腎臓 血漿分離 ウイルス除去 タンパク精製 | 各種メカニズム |
ろ過用多孔膜と選択透過膜の技術的な区別について
ここまで、ろ過用途の多孔膜から選択透過膜への技術や用途開発の流れをお話ししてきましたが、一旦ろ過膜と選択透過膜の技術的な違いを整理してみたいと思います。選択透過膜はろ過膜の概念を含む定義と考えられますが、それでは「ろ過膜」をどのような定義できるかを考えてみると、次の4条件を満たす膜として定義できるように思います。
① 圧力差を主な駆動力とする
供給側と透過側の圧力差により、流体が膜を通過します。
② 膜によって成分を分離する
膜が、粒子・液滴・分子・イオンなどの透過性に差を与えます。
③ 供給側と透過側の流体相が同一である
基本的には、流体が相変化せずに膜を透過します。
④ 流体が膜を横断し、透過流を形成する
供給されたバルク流体の一部が膜を横断し、透過側に連続的な流れを形成します。残りは膜を透過せず、保持流・濃縮流として回収されます。
ろ過という分離プロセスは、②分離膜に対して、③混合物の流体(液体・気体)を接触させ、①圧力という物理的駆動力、により④流体が透過する、ことで分離する、という理解になります。この定義でろ過膜と選択透過膜を分けてみると以下のようになります。ガス分離膜や逆浸透膜は、ろ過膜と選択透過膜の境界線上の膜分離方法になってくるかと思います。
| 膜技術 | 圧力駆動 | 成分選択 | 同一流体相 | バルク流体の横断 | 分類 |
| 精密ろ過膜 | ○ | ○ | ○ | ○ | ろ過膜 |
| 限外ろ過膜 | ○ | ○ | ○ | ○ | ろ過膜 |
| ナノろ過膜 | ○ | ○ | ○ | ○ | ろ過膜 |
| 有機溶媒ナノろ過膜 | ○ | ○ | ○ | ○ | ろ過膜 |
| 気体ろ過膜(粒子除去) | ○ | ○ | ○ | ○ | ろ過膜 |
| 逆浸透膜 | ○(浸透圧差に対抗) | ○ | ○ | ○ | ろ過膜 |
| ガス分離膜 | △(成分分圧差) | ○ | ○ | ○ | その他の選択透過膜 |
| 浸透気化膜 | △ | ○ | × | ○ | その他の選択透過膜 |
| イオン交換膜・電気透析 | × | ○ | ○ | × | その他の選択透過膜 |
| 燃料電池膜・水電解膜 | × | ○ | ○ | × | イオン伝導膜 |
| 電池セパレータ | × | ○ | ○ | × | 電気化学用隔膜 |
まとめ
ろ過用途の多孔膜の技術的理解と、さまざまな用途への適用可能性を検討する中から、「選択透過膜」というより広い概念に様々な用途、膜材料の検討が進展しています。気体からのガス成分分離、電池用膜などの領域、生体・バイオ用途の分離など、さまざまな新たな用途が検討されておりいくつかご紹介していきたいと思います。選択透過膜の理解においてご参考になればと思います。
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