布および派生用途の多孔膜の機能
多孔膜の歴史的な経緯を見ると布や紙などの用途がありました[多孔膜・多孔質膜とはどのようなものか?]。多孔膜のろ過用途は、歴史的には布や紙がろ過用途に用いられてきましたが、19~20世紀の多孔膜の技術的な進展により、材料や用途の多様化が進みました。次に、布や紙などの用途・機能と多孔膜・多孔質材料との関係を見ていきたいと思います。
まずは「布」としての用途から分類される機能をまとめています。この基本機能の内、②通す、③捕捉する、という機能はろ過用途と関連します。その他の機能は、「布」という材料の活用から現れており、それぞれ高度化により求められる機能が生まれています。
| 基本機能 | 布に求められること | 高度化すると求められること |
| ① 覆う・遮る | 外部と内部を隔てる | 水、微粒子、微生物など特定物質だけ遮断 |
| ② 通す | 空気・水分を通す | 水蒸気だけ通す、特定ガスを通す |
| ③ 捕捉する | 埃・異物を捕らえる | 微粒子、微生物などを高精度に捕捉 |
| ④ 吸収・保持する | 水・油などを吸う | 高速吸収、保液、選択吸着 |
| ⑤ 熱・音を制御する | 保温する | 断熱と透湿・放熱を両立 |
| ⑥ 形状を作り力を受ける | 強度・柔軟性を持つ | 軽量、高強度、伸縮、耐摩耗 |
| ⑦ 表面・界面を作る | 人・物と接触する | 防汚、撥水、親水、抗菌、センシングなど |
布の概念から派生した多孔質材料
「布」という材料は広義の多孔膜・多孔質材料の範疇の中で、特徴として「繊維」構造がある、ということにあると思います。この繊維を有する布という概念から、織布・編布のような織り方の違い、織らない不織布という構造、さらに不織布の繊維の微細化、といった布の種類の分類ができると思います。
基本的な布の分類としては、織布・編布・不織布という繊維構造の分類があります。織布・編布では、「繊維」をまとめた「糸」の構造があり、この糸の連結構造により機械的物性の違いがあります。不織布は繊維自体が布を構成する構造になります。この織布・編布・不織布という分類により、布としての強度(織布)、柔軟・伸縮性(編布)、また多孔質膜としての高空隙性や空隙の均一度(不織布)、という特徴が表れます。
また、主に不織布の範疇において繊維をより微細化・極細化する、極細繊維化、メルトブロー、ナノファイバーなどの分類があります。この繊維を細かくする方向では、基本的に繊維から構成する多孔構造の違いの特徴を活かした、ろ過や吸着などの用途展開が進んでいったように思います。
| 形状 | 構造上の特徴 | 機能的特徴 | 特徴を活かした用途 | 具体的な活用例 |
| 織布 | 経糸と緯糸を規則的に交差。 開口形状、糸密度、織り方を設計しやすい | 高引張強度・寸法安定・耐摩耗 規則的な開口・洗浄・再使用性。 糸方向に強度や流動特性を持たせられる | 粗ろ過、 スクリーン 膜支持体、補強材 耐久性が必要な保護材、導電性基材 | 液体ろ過用ろ布、集塵バッグ スクリーン印刷用メッシュ 建築膜材、FRP補強布、 金属繊維による電磁波遮蔽布 |
| 編布 | 糸をループ状に連結する。ループが変形するため伸縮しやすい | 柔軟・伸縮・曲面追従性、 クッション性、通気性。 変形により開口率変わる | 身体・曲面への密着、弾性支持、圧迫・固定、可変開口、ウエアラブル材料、スペーサー構造 | 医療用サポーター、圧迫衣料 人工血管基材、 立体編物クッション、車両座席 伸縮性電極・センサー |
| 一般不織布 | 繊維をランダムまたは一定方向に配置し、熱、接着、機械的交絡などで一体化。 糸にする工程が不要 | 高空隙率、複雑な三次元流路、厚み方向の深層捕捉、高保液性、断熱性、吸音性。 繊維・材料を混合し易い | 前処理ろ過、衛生材、吸収材、 断熱・吸音材、 膜支持体、吸着剤・触媒の担持体 | エアフィルターのプレフィルター、液体フィルター 紙おむつ、医療ガウン、ワイパー 自動車用吸音材、屋根用防水シートの基材 |
| 極細繊維不織布 | 一般不織布より細い繊維を高密度に集合させる。 繊維本数と繊維表面積が増える | 小さな繊維間孔、高い接触面積、柔軟性、緻密性、微粒子捕集性。 繊維表面での吸着や濡れ性を利用しやすい | 高性能ワイピング、 微粒子ろ過、 人工皮革、保温材、 油吸着、精密研磨 | クリーンルーム用ワイパー、眼鏡拭き 人工皮革、高性能断熱衣料 液中微粒子の前処理フィルター |
| メルトブロー不織布 | 溶融樹脂を高速熱風で細化し、極細繊維をランダムに堆積。 主にPPが使われる | 高比表面積、微細な繊維間孔、高空隙率、軽量性、粒子捕集性、油吸着性。エレクトレット化により静電捕集を付加できる | 呼吸用フィルター、空調フィルター、油水分離、液体ろ過、吸着・分離、電池セパレータ | マスクの中間捕集層、掃除機フィルター、空調用フィルター、油吸着マット、カートリッジフィルター。 (PP系メルトブロー材料)媒体ろ過、油水分離、重金属イオン・有機汚染物質の除去、電池セパレータ |
| ナノファイバーシート /ナノファイバー層 | 主に電界紡糸などで、ナノメートルからサブマイクロメートル領域の繊維を堆積。非常に薄い繊維層を形成できる /ナノファイバー層を織布、編布、不織布などに積層 | 非常に大きな比表面積、微細な繊維間孔、高空隙率、表面修飾性。 薄層で捕集・吸着・反応・検知機能を付与 /ナノファイバーの機能性と基材の機械強度を両立。層ごとに捕集、支持、保護などを分担できる | 高性能ろ過、 バイオ・化学センサー、 創傷被覆材、細胞足場、薬剤徐放、 吸着・触媒、電池・発電デバイス /高性能フィルター、医療材料、防護材料、機能性衣料、多層分離材 | HEPA用途補助層、呼気・ガスセンサー、 創傷治療用シート、組織工学用足場、 重金属吸着材、光触媒シート、電池電極・セパレータ /メルトブロー層間にナノファイバー層を配置した高効率フィルター、織布・編布・不織布で補強した医療用ナノファイバー膜 |
布用途と多孔膜の用途
「布」という繊維構造から派生した多孔膜材料の用途展開以外に、「布」の用いられる機能から、改良や機能化のニーズが生じるケースもあります。
布の主要用途の一つの衣服では、防護のため隔てる機能を高めつつ、着用時の水蒸気を通すため、ePTFEを用いたゴアテックス®などのスポーツ衣料や、医療用服などの用途展開があります。また、吸収する機能では、紙おむつの表面の水をすぐに吸収する不織布や創傷被覆材など、布・多孔質膜の機能が活用されています。ろ過の用途では、不織布などのろ過材料もありますが、NF・ROのようなろ過膜の領域ではろ過機能層を支持する基材として不織布や織布・編布が用いられます。
これら、布としての用途における機能化でも、さまざまな多孔膜材料やその機能の活用が行われています。
| 基本機能 | 従来の布 | 従来材料の限界 | 改良要求 | 適用された 構造 | 適用された 多孔膜 | 拡大用途 |
| 隔てる | 高密度織布 | 微細粒子や液体の完全遮断不可 | 防水、微粒子遮断、透湿 | 積層布 | ePTFE、微多孔PU | 防護服、医療、建築 |
| 通す | 綿、麻、合成繊維布 | 通過成分を選択できない | 水蒸気だけ通す | 膜積層布 | ePTFE、親水性PU | 防水透湿衣料 |
| 捕捉する | ろ布、金網 | 微細粒子の捕捉に限界 | 高精度分離 | 不織布、ナノファイバー、膜 | PTFE,PVDF、 PES,PA | 医薬、食品、半導体 |
| 吸収する | 綿、パルプ | 吸収速度、保持量、方向性に限界 | 高速吸収、一方向移送 | 多層不織布、多孔質シート | 親水化多孔膜 | 衛生材、診断材 |
| 熱や音を制御する | 羊毛、厚手布 | 厚く重くなる | 薄型、軽量、透湿 | 極細繊維、多孔質複合材 | 微細多孔シート | 防寒、建築、車両 |
| 支える | 織布、不織布 | 単体では選択透過できない | 強度と分離性の両立 | 膜支持体、積層材 | 各種薄膜 | フィルター、防護材 |
| 界面を作る | 一般布 | 受動的な接触面にとどまる | 抗菌、検知、吸着 | 機能担持布、機能膜 | 導電性・反応性多孔膜 | センサー、医療 |
まとめ
多孔膜・多孔質材料の歴史的な用途である「布」から、繊維構造の材料の開発や、布としての機能活用の深化についてご紹介しました。布や派生用途の多孔膜の理解・選択でご参考になればと思います。
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